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ルッカからローマへ、日本での宣教者・殉教者しのぶプロジェクト

バチカン図書館で、日本における福音宣教史や、宣教者・殉教者の研究をまとめた論文集が紹介された。

 バチカン図書館で、1月24日、日本における福音宣教の歴史、宣教師や殉教者の研究をまとめた論文集のプレゼンテーションが行われた。

 この論文集は、2023年5月、イタリア中部トスカーナ州・ルッカで開催された国際会議の成果をまとめ、記録したものである。

福者殉教者オルスッチ神父とルッカ教区のプロジェクト

 ルッカ教区は、2023年、地元出身で、日本で殉教した宣教師、福者アンジェロ・オルスッチ神父(1573-1622)の殉教から400年と、生誕から450年を記念し、「Thesaurum Fidei(信仰の宝)、日本の殉教宣教者と潜伏キリシタン、300年のキリストへの英雄的忠実」と題した、日本におけるキリスト教宣教の歴史を振り返るプロジェクトを立ち上げた。

 福者アンジェロ・オルスッチ神父は、トスカーナ・ルッカの貴族の家系に生まれ、若くしてドミニコ会に入会。宣教師を志し、メキシコ、フィリピンで活動後、1618年8月、キリスト教への弾圧が高まっていた日本に渡った。布教活動を始めて間もない同年12月に長崎で捕らえられ、大村の牢に入れられた。1622年9月10日の「元和(げんな)の大殉教」において、他の司祭、修道士、信者らと共に長崎西坂の丘で殉教した。1867年7月7日、教皇ピオ9世によって、日本205福者殉教者(江戸時代初期の日本における205人の殉教者)の一人として列福された。

 ルッカ教区のプロジェクトは、殉教400年および生誕450年を迎えた福者オルスッチ神父の生涯・霊性と共に、主にキリスト教伝来から禁教時代にかけての日本のキリスト教史・福音宣教史を、展覧会と国際会議という2つのイベントを通して振り返っている。

 このうち展覧会(昨年5月8日−31日)は、ルッカ市内の聖クリストフォロ教会、国立図書館、国立文書館、ルッカ教区歴史資料館の4カ所で開催され、日本の宣教殉教者、潜伏キリシタンの様子を伝える貴重な史料の紹介や、日本のキリスト教史をわかりやすくまとめたパネル展示などが行われた。

 また、同じくルッカで開かれた国際会議(昨年5月6日-7日)では、「日本での福音宣教の始まり」、「日本における宣教師と殉教者」、「福者アンジェロ・オルスッチ」、「ヨーロッパに伝えられた日本の殉教者」「潜伏キリシタン」などをテーマに、イタリアはもとより、日本やアメリカなどからの研究者が参加し、2日間にわたり発表が行われた。

 ルッカでのこれらのイベントには千葉明・駐バチカン日本国特命全権大使をはじめ、長崎大司教区から髙見三明名誉大司教率いる巡礼団が参加。一方、2022年9月10日に長崎で行われた「元和の大殉教400年」の記念式典には、ルッカ大司教区からパオロ・ジュリエッティ大司教らが参加するなど、福者オルスッチ神父の殉教・生誕記念は国際交流を深める機会をもたらすことになった。

「信仰の宝」伝えるプロジェクト、ルッカからローマへ

 こうして昨年ルッカで立ち上がったこのプロジェクト「Thesaurum Fidei」は、現在ローマに会場を移して、継続されている。

 ルッカでの貴重な展覧会は、昨年12月12日から今年1月18日まで、ローマの教皇庁立ウルバニアン大学でも開かれた。

 同展覧会は、2024年2月19日より、同じくローマ市内の教皇庁立グレゴリアン大学でも開催が予定されている。

 さらに、ルッカでの国際会議の内容を記録した論文集の紹介が、1月24日、バチカン図書館のサローネ・システィーノで行われた。

 サローネ・システィーノは、シスト5世の命により1587年から1589年にかけて建設されたバチカン図書館の新しい建物の中に作られた大広間。壁一面を覆うフレスコ画の一角には、1585年に行われたシスト5世の戴冠式の行列風景が描かれ、その中に天正遣欧少年使節の姿を見ることができる。

 本のプレゼンテーションに伴い、バチカン図書館・文書館館長アンジェロ・ヴィンチェンツォ・ザーニ大司教や、図書館長マウロ・マントヴァーニ師、ルッカ大司教区のパオロ・ジュリエッティ大司教、ドミニコ会シエナの聖カタリナ・ローマ管区管区長アントニオ・ココリッキオ神父、千葉明・駐バチカン日本国特命全権大使による挨拶が行われた。

 千葉大使はこの中で、「プロジェクトThesaurum Fideiが焦点を当てる時代は、痛ましいと同時にまた心をとらえる時代であり、特に地理的・文化的にかけ離れた二国間の関係の歴史の開始となったという意味で重要な時期である。そして、現在その関係は、正義と平和と対話の名のもとに、友情と協力によって強く結ばれるに至った」と話した。

 続いて、バチカン図書館前図書館長チェーザレ・パシーニ師、福音宣教省歴史文書館館長フラヴィオ・ベッルウオミニ師、パヴィア大学のオリンピア・ニリオ教授らによって、ルッカでの国際会議の成果であるこの論文集の紹介が行われた。

 ここでは、ルッカでの会議を紹介しつつ、日本の潜伏キリシタンとその殉教の歴史、厳しい迫害の様子、キリストに倣う者として苦しみと死をも完全に受け入れる人々の強い信仰の態度などを改めて振り返った。

 また、長い潜伏の年月を経て、キリシタンの存在が世に知られるきっかけとなった「信徒発見」の出来事などがパシーニ師によって語られた。

26 1月 2024, 20:00