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映画『祈り 幻に長崎を想う刻』バチカンで上映会

映画『祈り 幻に長崎を想う刻』(松村克弥監督、2020年)の上映会がバチカンで行われた。

 映画『祈り 幻に長崎を想う刻』(松村克弥監督、2020年)の上映会が、11月21日、バチカンのフィルモテーカ(フィルム・ライブラリー)で行われた。

 同作品は、1959年、第6回岸田演劇賞、第10回芸術選奨文部大臣賞を受賞した田中千禾夫の戯曲「マリアの首 幻に長崎を想う曲」を映画化したもので、原爆投下から12年が過ぎた1957年、戦争のまだ深い傷跡の中で「戦後」に向けて歩み出そうとする過渡期の長崎を幻想のうちに描いている。

 映画では、原爆投下で瓦礫と化した浦上天主堂に残された聖母マリア像の頭部を、天主堂が完全に取り壊される前に運び出そうとする2人の女性を中心に、様々な登場人物たちのそれぞれの「戦後」を通して、当時の社会の様相を垣間見せながら、その背後を覆う戦争の不条理、原爆の恐ろしさを、取り除くことのできない重い現実、歴史として突きつけている。その中で、被爆マリアの像のまわりに集まる人々の平和への強い思い、命ある限りつながれていく祈りがこの作品の全編を貫いている。

 上映会で、千葉明・駐バチカン特命全権大使は、原爆による人々の犠牲を通じて、人類が戦争の不条理さを学んだならば、どれほど人々の心に叶ったことでしょうか、と話しつつ、残念ながらウクライナや中東に見るように、いまだこの教訓を学びきれない状況の中、この作品の上映はさらに重要な意味を持つと話した。

 上映会には、松村克弥監督、城之内景子プロデューサーはじめ、日本の関係者による使節が参加した。

 松村監督は、上映後の挨拶で、この作品は日本が第二次世界大戦で敗北した10年後、日本が戦後の絶望的な荒廃から奇跡の高度経済成長をスタートさせた時期の物語であり、戦争を忘れていく人、幼少で戦争自体をよく知らない世代が現れ、被爆国、日本でも戦争の記憶が消えていこうとする時、被爆マリアを戦争の記憶、長崎の傷として、社会の底辺の人たちが持ち去ろうとするストーリーを描いた、と語った。

 そして、松村監督は、作品の中で原爆症を負った一人の登場人物が叫ぶ「戦争ほど悲惨で残酷なものはなか。原爆落とす前に戦争そのものば無くしたか!」という言葉を、この映画のテーマとして示し、「私は知恵も力もなく祈ることしかできないけれど、それでもひたすらに平和を祈っていきたい」というさだまさし氏による主題歌のメッセージを伝えていきたい、と話した。

 この上映会に合わせ、教皇フランシスコが原爆のシンボルとして深い思いを寄せられ、同作品中にも登場する写真、「焼き場に立つ少年」を陶板にしたものが、関係者より教皇庁に寄贈された。

22 11月 2023, 14:20