「福音宣教は今日のため」教皇一般謁見

　教皇フランシスコは、11月29日、バチカンのパウロ6世ホールで水曜恒例の一般謁見を行われた。

　先々週より教皇は「福音宣教の情熱：信者の使徒的熱意」をめぐるカテケーシスのまとめに入られた。この日は福音宣教を「今日のためのもの」という観点から考察された。

　教皇は先週末からのインフルエンザ症状のため長時間喉を使うことを控え、カテケーシスのテキストは国務省のフィリッポ・チャンパネッリ師によって代読された。

　教皇のカテケーシスの要旨は次のとおり。

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　これまでのカテケーシスで、福音の告知とは「喜び」であり、「皆のため」であると学んだ。今回はこれを「今日のためのもの」という点から考察しよう。

　現代は悪く語られることが多い。確かに、戦争や、気候変動、世界中の不正義と移民現象、家庭や希望の危機といった、心配の理由は尽きない。一般的に見て、今日の文化は個人を最優先し、技術をすべての中心に置いているように思われる。しかし、同時に、技術革新と個人至上主義の文化は、際限のない自由と、その後ろに取り残された人々に対する無関心をもたらした。また、現代は人類の大きな渇望を貪欲な経済論理に明け渡し、生産性のない者を切り捨てる人生観を与え、内在を超越した存在を見つめることを難しくさせている。さらには、わたしたちは神を持たない社会を築こうと試みる史上初めての文明の中にいるとさえ言える。そこでは巨大な都市が高層建築をそびえさせながらも、水平に広がるだけである。

　ここで思い起こされるのはバベルの塔の物語である（参照 創世記11,1-9）。そこでは人々が唯一の言語を、いうならば「唯一の考え」を持っていた。皆が一種の魔法に包まれたような状態の中で、一人ひとりの唯一性は、画一性という大きな泡に取り込まれようとしていた。そこで、神は人々の言葉を混乱させ、多様性を再び取り戻させると共に、人類が神になり代わろうとし、自分たちの万能に酔いしれるのを思いとどまらせようとされた。この物語は今日にも当てはまるものである。

　使徒的勧告『福音の喜び』の中でわたしはこう記した。「神との関係や他者との関係を新たに築く方法を明らかにする福音宣教、基本的な価値を確立する福音宣教が必要とされています。新たな物語や物の見方が形づくられる場へと届くこと、イエスのことばが都市の精神のもっとも深い部分に触れるようにすること、これが不可欠です」（n.74）。

　別の言い方をするならば、その時代の文化に身を置いてのみ、また使徒パウロの「今や、恵みの時、今こそ、救いの日」（2コリント6,2）という言葉を常に心に抱いてこそ、イエスを告げることができるということである。現代に過去から来る別のビジョンを対比させる必要はない。たとえそれが真実であったとしても、時代と共に抽象化された宗教的確信をただ唱えるだけでは十分ではない。真理は、大きな声を上げることによってではなく、生き方をもって証ししてこそ、信じうるものになる。

　使徒的熱意は、単なる既成の方法の繰り返しではなく、今日のわたしたちのための生きた福音の証しである。これを意識しつつ、わたしたちの時代、文化を一つの賜物として捉えよう。この時代はわたしたちのものであり、それを福音化することは、遠くから裁いたり、バルコニーからイエスの名を叫ぶことでもなく、道に降りて、人々が苦しみ、働き、学び、考える場所に行き、人々と人生の意味を分かち合う交差路に暮らすことである。それは教会にとって、対話と出会いと一致のパン種となることを意味する。

　現代の十字路にいることが必要である。そこから出ることは、福音を貧弱にし、教会を一つの分派にしかねない。それに対し、人々の間に通うことは、信仰の宝である「新しいものと古いもの」（マタイ13,52）を取り出し、分かち合うために、わたしたちキリスト者にわれわれの希望の理由を新たに理解させるのを助けるだろう。

　今日の世界を新たに回心させるというより、今日に福音がよりよく受肉するよう、司牧のあり方についての回心が必要と言えるだろう。